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東京高等裁判所 昭和42年(ネ)623号 判決 1967年9月19日

理由

《証拠》によれば、被控訴人は、同人主張のとおりの記載のある約束手形(以下本件約束手形という。)を同手形の名宛人である訴外大桟産商株式会社から昭和三九年九月一日裏書譲渡を受け、現にその所持人であることが認められる。

控訴人は、本件手形振出の事実を否認し、本件手形は、控訴人の意思に基づかずに流通に置かれたものであると主張するところ、控訴人が不動文字で印刷された手形用紙を用い(甲第一号証の一)、その振出人欄に自ら署名、押印し、これを任意に訴外川人献三に交付したものであることは控訴人の自認するところであるから、その目的の如何にかかわらず、また、後記のとおり手形要件の一部につき記載をしなかつたとしても、控訴人は本件手形の振出人としてこれを流通に置いたものというべきであつて、特別の事情のないかぎり、被控訴人に対し、本件手形の振出人としてその責を負わねばならないものである。

控訴人は、本件手形を訴外川人に交付した当時、その受取人欄、支払期日欄を空白のままとし、何人にも右の白地部分について補充権を付与したものでないから、本件手形は基本手形としての要件を欠くものであり、何人かがこれを補充したのは、白地補充権の濫用であると主張するところ、《証拠》によれば、本件手形は、これが訴外川人に交付された当時、控訴人主張の各欄の記載が欠けていたものであることが認められるが、前記の控訴人が自認する事実に徴すれば、反証のないかぎり控訴人は本件手形を白地手形として振出したものと推認するのが相当であり、控訴人が何人にも右の白地部分の補充権を与えたものではなかつたと認めるに足りる証拠はなく、また、既に右の白地部分が補充された本件手形を取得した被控訴人に悪意または重大な過失があつたとの主張も証拠もないから、控訴人の右の抗弁は採用しがたい。

また、控訴人は、本件手形を訴外川人に交付するにつき、同人の信用を第三者に示すための見せ手形として使用する約束であつたと主張するが、被控訴人が右の事実を知り、害意をもつて本件手形を取得したことにつき主張も証拠もないから右の抗弁は採用するによしない。

さらに、控訴人は、訴外会社に対してはなんらの債務もないことおよび同会社に対する反対債権による相殺をもつて抗弁し、その前提として、被控訴人が本件手形を取得したのは支払拒絶証書作成期間経過後であると主張するところ、被控訴人は前記のとおり本件手形をその支払期日(昭和三九年九月一五日)以前に訴外会社から裏書により譲受けたものであることが認められるから、右の抗弁も採用しがたい。もつとも、郵便官署作成部分につき成立に争いがなく、《証拠》によれば、訴外会社が控訴人に差し出した本件手形金の支払の催告書には、訴外会社が本件手形をその支払期日に支払場所に呈示したかのような記載があるので、被控訴人はその後に本件手形を取得したように解されないではないが、《証拠》によれば、被控訴人は本件手形が不渡りとなつた後、訴外会社の紹介者である訴外小橋照夫を通じて裏書人である訴外会社にその支払を請求したため、訴外会社はその責任上控訴人に対し本件手形金の支払を催告するに当つて、乙第一号証の一に記載されているような文言を用いたものであることが認められるのであつて、右の書面の記載から直ちに本件手形は、これが支払のため呈示された当時は、訴外会社の手中にあり、その後被控訴人の取得するところとなつたものと推断することはできない。

以上のとおりであるところ、《証拠》によれば、被控訴人は昭和三九年九月一七日に本件手形を支払場所に呈示して支払を求めたことが認められるから、控訴人に対し本件手形金一一五万円およびこれに対する昭和三九年九月一七日から完済まで手形法所定の年六分の割合による利息の支払を求める被控訴人の請求は理由があるというべきである。よつて、これと同旨の原判決は相当であるから、本件控訴はこれを棄却……。

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